平和をテーマにした巨大絵巻「夢絵巻」

静岡県から平和を発信する夢絵巻
2024年の春、15メートル弱の巻物が作れるかという問い合わせを受けた時のことを覚えています。「縦に?横に?そんな長さの巻物が室内に収まるのだろうか?」と想像もつきませんでした。そんな疑問から始まった巻物の作成過程をご紹介いたします。
愛媛県松山市にある本社工場へ依頼すべく、プロジェクトの代表をつとめる森谷先生と様々な打ち合わせを重ねました。表紙の裂、軸先、紙本の状態、手打ちの状態、墨で汚れた部分の修復、書損じの修復など、数え切れないほどの相談を行い、後にメールから決定事項を探すのが一苦労なほどでした。

決定事項をもとに、先生からお預かりした作品を携えて本社工場へ赴き、若手職人、ベテラン職人、そして総仕上げを担当する匠たちと綿密な打ち合わせを行いました。私にとっては純粋に喜びでしたが、工場の職人たちにとっては緊張と時間との戦いでした。1巻、2巻、3巻と進み、完成と同時に最年長の職人さんが定年退職を迎えられました。


職人は手の柔軟さが不可欠だそうです。「年を取ると手が固くなる」と、父も嘆いています。この世代交代の節目に、ベテラン職人の監修のもと、15メートルにも及ぶ巨大絵巻が完成したのでした。
完成した巻物を確認して気づいたのは、まず通常の巻物とは思えないほどの重さです。平和への思いが込められた作品の重みを実感しました。立派な日本画が書の前後に続いているため、巻く際は緩やかに行います。これは顔彩や絵の具が割れるのを防ぐためです。巻いても巻いても終わらない15メートルの長さに、なかなか巻き終えることができません。きつく巻きすぎたと感じたら、巻き直します。紙箱に収めるまでの間、この貴重な作品を丁寧に扱うことに緊張が絶えませんでした。
収めた先では関係者様の感想を頂き、「巻いてしまえば軽い」「全部広げると壮観だが部分的に見れるのも面白い」といった言葉を頂きました。巻いてしまえば軽い、そうなんです。保管や移動に適した昔からある形なのです。全部広げると圧倒されるのはそれだけストーリーや知識が詰まっているからですね。画帖では出せない壮観さだと思っています。


こうして見送った3巻の巨大絵巻は、静岡での展示を経て、来年ワシントンへ旅立つそうです。歴史を紐解けば、この地球では大昔から争いが絶えることはなく、現在も続いています。まるで人間は争うために生まれてきたかのように見えるほどです。その争いにお互い守るべき理由があることは理解できますが、それでもなお、心から平和を願わずにはいられません。
今回は技術的な学びだけでなく、平和という理念を具体的な形で表現する機会を与えてくださった森谷明子先生に、心より感謝申し上げます。また夢絵巻が訴える平和のメッセージが皆さんの心により深く根付き、平和への意識がさらに高まることを願っております。
2025年3月20日~24日 11時~17時 静岡市民ギャラリー 第4室にて展示(入場無料)
